少しのお喋りくらい付き合ってよ
これが最後の我儘となる
もう少し月が近く見える場所で
手を繋ぎたいとは言わないから

ペアで揃えたカップには
ほんのりと甘いココアがいい
冷まさなくても飲める程度の
絶妙の温度が少し憎い

猫舌・猫手の僕をからかうような
熱すぎるココアを用意してよ
夜明けまで、なんて言ってられない
話をするのはこのココアが冷めるまで

こんな夜に限って雪が舞うくらい
凍てつく空気で溢れてる
絵本みたいな月が見ている
寒空 まるで天使にでもなったみたい

生温いなんてもんじゃない
最初から氷を入れてたみたいな
冷たくなったココアだから
これが僕の最後の夜

カップをちょうだい
甘さはきっと丁度よかった
最後くらい家まで送らせて
合鍵は君に返させてね

少し熱めのミルクで溶かして
少しかき混ぜて少し冷まして
理想の温度は37℃
君の手際は火傷知らず

結局言えなかったことがある
もう今更言葉になんてできないから
ほんの少しだけ僕のこと
思い出に変えておいてよ

カップに残った冷たいココア
ミルクココアをずっと知ってる
最後とは自分で決めたことなのに
どうしても飲み干せなくて

39℃のココアを入れたのは
君の最後の優しさでしょう
こんなに冷めてしまっているのに
こんなに寒い夜なのに

少しのお喋りくらい付き合ってよ
これが僕の最後の我儘
絵本みたいな月が見ている
君のそういうところに惹かれてた

寒空 まるで天使にでもなったみたい
この夜は直に終わりそうだから
丁度君の家にも着いたし
そろそろ僕は出掛ける時間

ペアで揃えたカップには
ほんのりと甘いココアがいい
37℃と39℃
そんな違いは僕じゃなきゃわからない

また明日会えるみたいに
お互いに手を降ってみた
もう会うことなんてないだろうけど
最後に吐く嘘は僕も君も共犯者

冷めきったミルクココアを飲み干した
最初で最後の恋だった
愛して、なんて言わないから
来世でも僕と出会って欲しい


ペアで揃えたカップには
ミルクで溶かしたココアがいい
ほんのり優しい甘さで包んで
君よ どうか幸せであれ