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夢は自由さ。たとえ坊ちゃんにぎぅうううってされようとも、におーにぎぅうううってされようとも、サレ様に頭撫でられようとも、思いっきりスパーダの肩を掴もうとも。夢ではすべてが、自由なのだよ。
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あの女、俺なんかじゃなくて、玲介のような優しい奴に惚れたらよかったのに。俺は心底、そう思う。玲介ならなにを話しても盛り上がるし、青や赤、白を基調としたユニフォームを身に付けて、卓球の大会でかなりの後半戦まで残っている玲介は、男の俺が言うのもなんだけど、正直、結構カッコイイ。空気が読めないところだって、却って魅力になっていると思う。玲介って、天然だし。なにもない俺とは違う。

ズボンのポケットに手を突っ込んで、取り出したものを、俺は玲介に見せる。その辺りの雑貨屋で、105円あれば手に入りそうな、ストラップのついた安っぽいマスコットだ。宇宙人にも見えるし、なにかのゲームに出てくるキャラクターっぽいような気もする。一言で言うと気持ち悪い。世間的には、キモカワイイ。

「なんだよ、それ」

玲介は怪訝な顔をする。俺は静かに言う。

「今日、あいつが落としていったみたい」
「あいつ、ってやめろよ。クラスメートだろ」
「別の奴が言ってるのを聞いた。これ、今ちょっと人気のアイテムらしい。ずっと持ち歩いてたら、願いが叶って幸せになれるんだって」

手の中のマスコットを、俺は、ぎゅっと握り締める。爪が白くなって、掌に食い込んで血が滲みそうなくらい、俺は、拳を固める。

「こんなのまで持って、よっぽど俺のことが好きだったんだろうな。これのおかげで告白できて、あいつ、今頃幸せだろうな。満足してるだろうな」
「その“あいつ”っていうのはやめたほうが」
「煩い!」

自分でも無意識に、声を荒げていた。玲介は、びくりと肩を震わせた。

俺は、マスコットを思い切り地面に叩きつけた。

「“あいつ”はやめろ? なんでだよ。あいつ、で十分だ。“あいつ”で十分、十分すぎる程十分なんだよ!」

何度も、俺は何度も何度でも、マスコットの腹に、全体重をかけて足を落とし続けた。既にマスコットは傷だらけのぼろきれになっているのに、いくら壊しても足りなくて、でもだからこそ壊すしかなくて、俺はマスコットを破壊し続けた。

「うぜえんだよ、うぜえんだよ、うぜぇうぜぇうぜぇ! うざすぎなんだよ! お前なんかが、お前なんかが生まれてくるな!」
「おい、落ち着け!」

玲介が俺の前に立つ。沈む夕陽に照らされて、玲介は、背後から赤みがかっている。

沈む夕陽、明日もまた、飽きずに晴天。どう考えても場違いなそのフレーズが、どういうわけか、俺の脳裏を不意に掠める。

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玲介に肩を掴まれても、俺は破壊をやめられなかった。それどころか、玲介にストッパーをかけられていることで、衝動はさらに大きくなっていく。

「力なんてないくせに、全然そんな力なんて持ってないくせに! 力があるふりするんじゃねえよ! うぜえんだよ! 人を幸せにできるなら、今すぐ、この場で、俺を、幸せにしてみろよ!」
「尚、落ち着け。二、三歩下がれ。息を吸って、ゆっくり吐け」

玲介に肩を押されて、俺は、一歩、二歩、三歩と後ろに下がった。息を整えろ、と玲介が言う。俺はなんとか深呼吸をして、胸に手を置いた。動悸が激しかった。

まだ少し荒い息を鎮めながら、俺は、玲介越しに、自分が破壊したマスコットに目をやる。原型だけはどうにか留めているけど、もう、「マスコット」としての役目は果たせそうになかった。

「ただの玩具だよ」

玲介が言う。途端に、俺は悲しくなった。俯いたら涙が出そうだ、と思ったけど、今の顔を玲介に見せるのも嫌だった。だから下を向いたら、やっぱり涙が出た。男のくせに、みっともなかった。

「わかってるんだよ。ずっと前から。幸せになれるとか願いが叶うとか、そんなの、ただの商売文句なんだって」

情けなく、声が震える。どうしようもなく、涙が流れる。どうしようもなく視界が霞んで、どうしようもなく涙が落ちる。

玲介は、なにも言わずに、俺から一歩離れた。こういうときこそ、空気の読めないキャラでいて欲しいのに。こういうときだけ、空気の読めるキャラにならないで欲しい。なんか、卑怯だ。

「小さい頃から、そういう嘘も商売には必要なんだって、俺、理解してた。姉ちゃんもしてたと思う。でも、俺、やっぱり許せないんだ。何年経っても、やっぱり許せないんだよ」

うん、と、玲介は頷く。

ふと、笑いが込み上げた。まだまだ震えの残る声で、俺は玲介に尋ねる。

「俺、最低かな。最低だよな。あの子は悪くないもんな」

ああ、最低だ。俺は、玲介ならそう言うと思った。一拍、玲介はなにも言わなかった。身動きひとつしなかった。そして、ううん、と首を振った。

「人間臭い。尚のそういう変に人間臭いとこ、その子は好きになってたのかもしれないよな」

まさかそんな言葉が返ってくるとは思わず、俺は一瞬、口を開けて呆けていた。人間臭い、だって。そりゃ、俺は人間だし。人間の臭いじゃなかったら、一体なんの臭いがするんだ。ていうか俺、最低じゃないのかよ。女の子の持ち物を壊して最低、って言えよ。だから、こういうときに、空気を読んでくれよ。

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玲介は、俺の顔を見て笑顔になる。なんで笑う。だから空気を読め、って言うのに。完全に玲介のペースだ。つられて俺も、はは、と笑う。

「明日も晴れるな。快晴だといいな」

玲介が言って、俺が応える。

「雲があっちゃだめなわけ?」
「俺、青が好きだから。今度の大会も、爽やかな青色のユニフォームで出場するんだ。また応援に来てくれるんだろ」
「なんでだよ。あの日は、たまたま暇だっただけだぞ」
「酷いな。俺が優勝する姿を見たくないのか」
「したことないくせに」
「今度こそするんだよ!」
「なに熱くなってんだよ」

熱くなってない、とむきになっている玲介は、明らかに熱くなっている。ちぐはぐしている玲介が、何故だか面白かった。

「ちょっと元気になったみたいだな。よかった」

夕陽を見やりながら、玲介はぼやく。

ふと俺は我に返って、ごめん、と小さく謝罪する。すると玲介は、無邪気な笑い声を上げた。

「いいんだよ、別に。尚に恋してる女の子には悪いけど、このマスコット、俺が貰っとくな」
「そんなぼろぼろ、どうすんだよ」
「どうもしないよ。ただ、俺が持って帰りたいだけ」
「……キザすぎだよ、お前」

せめて、そうしたほうが尚の目につかなくていいだろ、とか言え。なんだよ、俺が持って帰りたいだけって。優しすぎるだろ、お前。

マスコットにこびりついた土埃を払い、玲介は、それをポケットにしまい込む。そして、何事もなかったかのように背伸びをした。

「今日も一日、ご苦労さま、だな。さっさと帰ろうぜ」

すたすたと玲介が歩き始める。俺もその隣を歩く。玲介が三年生女子のみならず、一年、二年の両性からも多大な支持を得ている理由を、俺は改めて認識したような気がした。単純に顔がいいから、スポーツができるから、というだけではないのだ。もちろん、天然すぎる玲介は、自分が実はモテモテだと言うことには、今までもこれからも、ツユ程も気付くことはない。はずだ。と、俺は思っている。あまりに優しい玲介に対して、俺の考えは、少し失礼だったりするのだろうか。




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俺の弟の詩仁は、時々、世界の奥底で変わらない地獄を見てきたかのような顔をする。別に、表情に絶望の色を浮かべているわけでもないし、そうかと言って、不自然に明るい口調で喋るわけでもない。哀愁こそ帯びているけれど、詩仁は普段と変わらず、この日もへらへらと笑っていた。

「嘉兄、俺が自殺しようとしてたら、止めてくれるよな」

くれるよな、と確認口調の割には、詩仁の語尾は上がり気味だ。疑問系なのかそうじゃないのか、俺にはよくわからなかった。いきなり「自殺」なんていう単語が出てきたのは驚きだけど、まだ言葉の真意は掴めていない上に、せっかく詩仁から振ってきてくれた話を中断させるのも野暮だ。少し悩んで、俺はこう答えることにした。「止めないよ、俺」

すると詩仁は、思わず、と言った勢いで俺のほうを振り向いた。案の定、その瞳は予想外の返答に戸惑っているようだ。夕陽に照らされて、顔も髪も、ブレザーを脱いでシャツ1枚になっている制服も、詩仁は、淡くオレンジがかっていた。

沈む夕陽、明日もまた、飽きずに晴天。俺の頭を、意味もなくそんなフレーズが掠める。詩仁の目は見開かれていた。その双眸には、平然と構えた俺の姿がしっかりと捉えられている。

一頻り瞳を揺らした後、息を詰まらせたかのような詩仁の表情が、ふ、っと緩む。

「まじかよ。嘉兄、止めてくれないのかよ」

詩仁の頬が弛緩すると、俺の表情もつられて柔らかくなる。意識していないのに、口角が勝手に、じんわりと上がっていくのがわかる。

「いいのかよ。たったふたりの家族じゃん。俺がいなくなったら、嘉兄、本当にひとりぼっちだ」
「ふたりじゃないぜ。父さんも母さんもいるじゃないか」

俺が言うと詩仁は、少し俯きがちに、微かに笑い声を洩らした。酷く乾燥した笑いだった。それからすぐに顔を上げ、詩仁はさらに言葉を紡ぐ。完璧にいつもの調子の、髪やピアスのせいで教員や高校生に目をつけられては、にやにやへらへらして言い返してやり返す、「問題児」という元のキャラに戻っていたんだと思う。

「俺、嘉兄なら絶対止めると思ってた」

いかにも楽しげなハイトーンヴォイスで、詩仁はそんなことを言い放つ。胡座をかいて、詩仁は、どこかの学生たちみたいに寄り道なんて一切しない、真面目な太陽が海の中に消えていく様子をまっすぐに見据えていた。

ふと俺は思い付いて、後方に身体をちょっとのけ反らせてみた。細身、と総じて称するよりは、痩せていると言ったほうが馴染みよい詩仁は、当然のことながら背中も腰も小さく細く、どこか頼りないようにすら見える。中学も3年生にまでなれば、男子はだいぶ背が高くなるものだけど、どうやら詩仁は、まだピークを迎えていないようだ。運動神経のいい詩仁は、ひょっとして、俺より背が伸びるのだろうか。俺も別段、そんなに長身というわけでもないけど。いや、そもそも運動神経なんて関係ないか。ひとりで勝手に考えて、ひとりで勝手に俺は納得する。

「自殺しようかな、って考えたことない?」

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詩仁は、なんでもないことのようにさらりと言ってのける。詩仁がずっと正面方向を見ているので、俺も前に向き直った。たったひとりの俺の弟が、なにやら物騒なことを口走っているというのに、夕陽は無責任に沈み続けている。太陽には沈めば必ず昇るルールがあるけれど、人にそんな法則はない。一度沈んで、そのまま沈みきった状態の奴だっている。生きていればいつか絶対良いことが起こるなんて話、俺は絶対に信じない。


俺は口を閉ざしたままだった。そのまま数秒経って、詩仁が俺の隣で小さな笑いを転がした。投げ出したような、これもまた乾燥した笑いだった。

「じゃあ、もう生きてたくないと思ったことは? なんのきっかけもないのに、唐突にうんざりすることはない?」
「ある。本当に唐突にくるよな、あれ」

それこそ死ぬ程あるぜ。俺がそう付け足すと、詩仁は、同感だとでも言うように声を上げて笑った。今度はきちんと温度を保った、いつもの愛嬌のある笑い声だった。そのことに俺は少し安心して、ほっと胸を撫で下ろす。悪ぶっているけど繊細で、時々すごく壊れそうな弟を放って、俺がひとりで死ぬわけにはいかない。それに俺は、俺にとっては、ほかの人がどう感じるかはわからないけど、自殺は最良の選択にはなり得ない。死んだら、なにもかもおしまいなのだ。そう、本当に、なにもかもがおしまいになる。おしまいにしたいことなら多すぎて、いっそ吐き気を催す程だ。でも、おしまいにしたくないことだって少しある。他愛のない話題、とはさすがに言わないけれど、詩仁とのこんなやり取りも、まだまだ終わりにしたくはない。

なあ、と声を掛けられて、ん、と俺は詩仁に声を返す。詩仁がこっちを見たら振り向こうかと思ったけれど、そんな気配はないので、俺は前を向いていた。俺も詩仁も、ずっと夕陽を見つめていた。

思い切ったように、詩仁が呟いた。

「死ぬなよ、嘉兄」

言った、というよりは明らかに「呟いた」のほうが合っていた。詩仁は続けて、さらに呟く。

「俺を置いて、勝手に死んだりしないでくれよ。もしそんなことがあったら、俺、絶対許さない」

小言で饒舌。そこまでひねくれているわけでもないけど、そんなに素直というわけでもない詩仁が、はっきりと本音を口にした瞬間だった。詩仁の奴は、不思議な言い回しになることを承知であえて言うけれど、あまり素直にならないんだけど嘘は吐かない性分だ。兄貴の俺にはそれくらいわかっているし、俺じゃなくても、詩仁と少し付き合えばわかる事実だと思う。

「俺がいないと淋しいかよ、詩仁」
「寂しすぎて死んじゃうかも」
「じゃあ俺、今晩にでも、腹かっ捌いちゃおうかな」

火がついたように、詩仁が俺に顔を向けた。ふたつの瞳が、突然唯一の安定源を喪失したように、不安げに震え始める。その反応がなんだか面白くて、今度は俺が笑い声をあげた。一言「冗談だよ」と告げてやると、安心したのか、詩仁は長い息を吐き出しながら夕陽に目を戻す。

ちょっとからかうつもりだっただけなんだけど、俺のジョークが予想以上に詩仁の心にショックを与えてしまったようだ。この後の「寂しくて死ぬなんて、お前はウサギかよ」と茶化す計画の遂行は、さすがに罪悪感が募るのでやめることにした。仮に言ったとしても、「そうかも。俺って人間のふりしたウサギかもしれない」なんて答えられたら俺が返す言葉に困るし、詩仁なら真剣にそう言い兼ねない。

俺はずっと笑い続けていた。なんだか、なんとなく満たされているような気分で悪くなかった。いい加減で焦れてきたのか、少し怒ったような声で詩仁が「笑いすぎなんだよ」と文句をつけてくる。それでも俺は笑ってしまう。ついに詩仁は「先に帰る」と言って立ち上がった。ズボンについた砂を両手で払って、詩仁はくるりと踵を返す。本当に歩き去ってしまいそうな雰囲気だ。そう感じると、俺の顔から、すーっと笑いが引っ込んだ。

「詩仁」

既に2、3歩踏み出した詩仁を呼び止める。俺の背中側で、足音が止まった。

振り向かずに、俺は言う。

「お前のほうこそ、早まったことするんじゃないぜ。勝手にどっか行ったりしたら、俺、本当に絶対に許さないぜ」

少しの沈黙があった。俺は、ゆっくりと詩仁のほうを振り返る。兄貴の俺が言うこととしてどうなのか、とちょっと疑問だけど、詩仁の顔は整っている。美少年、というよりも、どちらかというとイケメンと呼ぶ部類だ。淡く微笑んでさえいればアイドル顔負けなのに、詩仁はいつも、へらへらのにやにやだ。正直、傍目には不審なオーラすら漂って見える気がする。

さっきまで怒っていたくせに、詩仁はにやけていた。面白そうに口を開く。

「寂しくて死んじゃうんだろ」
「え」
「俺がいないと、嘉兄、寂しすぎて死んじゃうんだよ。ウサギみたいだな」

ウサギみたいって、それは俺がお前に言ってやる予定だったことなんだぞ。まさか思考が被るとは、やっぱり同じ血が流れてるんだな。なんて俺が考えているとは知るはずもなく、詩仁はひとりで可笑しそうに笑っている。

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