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夢は自由さ。たとえ坊ちゃんにぎぅうううってされようとも、におーにぎぅうううってされようとも、サレ様に頭撫でられようとも、思いっきりスパーダの肩を掴もうとも。夢ではすべてが、自由なのだよ。
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七瀬、と三橋は俺を呼ぶ。なんだよ、と俺は適当に返事をする。三橋と来たら、顔が異様に整っているのみに留まらず、声までもが耳に心地よく澄んでいる。綺麗になりたい奴も綺麗にならなきゃいけない奴も、世の中には腐る程いるってのに、三橋は万人が欲しがる容姿を完全に独占していた。ちょっと小柄で細っこいものの、それがまた絵になっている。三橋は、誰がどう評価しても、美少年としか言い様のない中学生だった。

「七瀬のお兄さんって、いじめられてるの?」
「なんだよ、それ」

沈む夕陽、明日もまた、飽きずに晴天。絵画的に橙がかった窓辺の風景を横目に、三橋は、いきなり核心をついたようなことを言う。

一瞬、どきり、と胸が鳴ったのを感じた。しかし俺はたじろぐことなく、いつも通りに、へらへらと笑って見せた。

「そんな話、誰から聞くんだよ。お前にまさか友だちがいたなんて、すっごく意外だな」
「キミみたいな悪ぶってる奴のお兄さんが、まさかいじめられっ子だなんて。すっごく意外だね」
「だから、一体、誰からそんな話を」

特に意識したつもりはなかった。それなのに、俺の言葉は、ぷつりと途切れた。続けることができなかった。次ぐこともできなかった。なにを考えているわけでもないのに、俺はなにも言えなかった。

「手を動かしてね、七瀬」

先が緑色のデッキブラシで、三橋は、やる気なく水を撒いたタイルの床を擦っている。しゃかしゃかしゃかしゃか、と、気の抜けるような音が聞こえていた。

「誰のせいで、したくもないトイレ掃除なんかしてると思ってるわけ」
「俺もお前も、生徒課のジジイ先生のお気に入りってことだよ」
「キミがいると、ほんとろくなこと起こらないよね」

せめて僕にまとわりつかないで欲しいな。三橋は、飄々とそんなことを言ってのけた。綺麗な顔して、三橋は言いたいことをずばずば言う。転校してきたばかりの頃、クラスメートも教員もジジイ先生でさえ、フルでシカトを決め込んでいたあたり、三橋の態度はかなり露骨だ。もちろん、それが冗談のつもりのはずもない。ポーカーフェイスで冗談を言われても、正直、対応に困る。

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「キミのおかげで、僕は常に問題児扱いだよ。僕のためにも先生たちのためにも、もう学校に来ないのが得策だと思う」
「かもな」
「七瀬は、なんで学校に来るわけ」
「義務だから」
「なんの義務?」

自分の作業を続けながら、当たり前のように三橋は聞き返してくる。逆に俺が、「は?」と聞き返したくなった。バカなのか、こいつは。俺はちょっとだけ呆れながらも、微笑みを絶やさず答えてやる。

「義務教育のことだよ」
「いじめられてるお兄さんが学校に毎日行ってるのに、いじめられてない自分がさぼるのなんてできない、って言うかと思った」

ぴしっ、と、俺の頭の中で、なにかが軋むような音がした。なにが軋んだのか、俺にはわからなかった。

「いじめられっ子なんでしょ、七瀬のお兄さん」

抑揚なく、あっさりと三橋は言った。「―――だぜ」と、「ぜ」をつけて台詞を区切る癖がある嘉兄の、屈託のない笑顔が瞼に浮かぶ。俺の脳内で、またしても、なにかが軋む音が響いた。自分が真顔になっていくのがわかった。

「もう長いの?」
「だったらなんだよ」

自分でも驚くくらい、唸るような低い声が出た。しかし、三橋相手に、語調の変化は無意味だった。俺は前からそれを知っていたし、俺の思うところ、三橋はたぶん、誰かに胸ぐらを捻りあげられて屈服を迫られても、相変わらず無表情で澄ましているのだと思う。少なくとも、俺がそうしても、三橋は顔色ひとつ変えなかった。

「好きでいじめられてるわけじゃねえよ。同級生も教師もなにもかも、救いようがないくらいバカで、どうしようもねえんだよ」

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まあ、いじめってそういうもんだよ。三橋は、デッキブラシで床を擦りながら、しれっと言ってのける。

「七瀬だったら、学校に殴り込みくらいやりそうだけど」

「やったよ、昔」

声が張り詰める。脳神経が、ぎりぎりになっている。三橋がなにか言う度に、神経の両端を引っ張られているみたいだった。これ以上三橋が喋るようなら、俺は三橋を潰すかもしれない。俺の頭の中で、そんな不安が小さく発生した。

「で、いじめは収まったの」
「収まるわけねえだろ」

踏ん張って踏ん張って、俺は声を鎮めていた。持っているデッキブラシを、力任せに叩き折ってやりたかった。でも、そんなことをすればまたジジイが煩いだろうし、俺の兄貴が学校まで謝りに来るかもしれない。両親はともかく、嘉兄にそんなことをさせるのは絶対に御免だった。沸き上がる衝動を抑えこんで、俺は必死に直立を保つ。

いじめの存在を知り、耐えきれず俺が嘉兄の学校に乗り込んだのは、俺が数日間悩んだ末の決断だった。嘉兄は中学生で、俺は小学生だった。昼間に俺は学校を抜け出して、嘉兄がいる学校へ向かった。家から持ち出したナイフをポケットに入れていた。いじめっ子を殺してやりたい気持ちはあったけど、人を殺せば相当な罪になることは知ってたし、飽くまで護身用のつもりだった。そして結局、最後まで、ナイフをポケットから抜き出すことはなかった。

何年も前の、苦い思い出だった。はは、と俺は笑みを零す。

「いじめってさ、止めようとすればする程、拍車がかかるもんだよな」
「かもね」

自分から話を振ってきたくせに、三橋は興味なさげに応じている。こいつはそういう奴なのだ。わかっていれば、別に腹が立つことでもなかった。

思い出の中の教室で、俺は滅茶苦茶に叫んでいた。嘉兄をいじめてるのは誰だ、出てこい、嘉兄をいじめてるのは誰だ――――。あのときの俺は半狂乱で、自分でなにをしているのかも、よくわかっていなかった。誰を頼ることもできず、ひとりで黙って耐えている嘉兄を、悪い奴らから救い出したかった。それだけだった。

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弟の俺がしゃしゃり出たことで、嘉兄が受ける攻撃は強くなった。弟に守ってもらう兄貴、ということで悪口が増えたし、更に、弟の俺が私立の良い学校に通っていることが判明して、弟と違って出来の悪い兄と罵られることにもなった。俺に対する、妬みの対象にもなった。ことなかれ主義の教師は、見て見ぬふりを続けた。理不尽だけど、 嘉兄は、それまでよりも、もっと辛い目に遭うことになった。やり返さない嘉兄は、高校に進学した後もいじめの対象のままだった。それでも嘉兄は、教科書を破られても集団シカトされても、笑って俺の兄貴であり続けていた。

「今日もいじめられてるぜ、嘉兄の奴」
「学校に殴り込み、行かないの」
「酷くなるってわかってんのに?」
「それもそうだね」

俺が棒立ちしている間に、床を磨き終えたのか、三橋はデッキブラシを壁に立て掛けた。用具入れから真っ白な雑巾を取り出して、水道の蛇口を捻り、濡らして窓を拭き始める。

そして三橋は、とんでもないことを口走った。

「でもさ、七瀬。いじめって、必ずしも悪い結果を招くってわけでもないんだよ」

なにを言っているのか、俺には最初、よくわからなかった。やっぱりこいつはバカなのか。半端な時期に転校してきたとは言え、仮にもこの学校の生徒のくせに、大たわけなのか。いじめが悪い結果を招かないとすれば、どんな結果を招くと言うのか。さすがに腹が立ってきて、大人しく窓拭きをしている三橋の背中を蹴り飛ばしてやりたくなった。

「堺も昔、酷いいじめに遭ってたんだってね」
「玲介の話なら知ってる。クラブでラケット壊されてたんだろ」
「それでクラブが変わったから、堺の弟も卓球を始めるきっかけになった。大会でたくさん賞状をもらい始めたのも、その頃合いからなんでしょ」
「随分とわかった口聞いてんじゃねえか」

なんなんだ、こいつ。まるでいじめを肯定するような口調で喋っている。三橋の真意は、いつもよくわからない。

「まさかお前、いじめのおかげで、玲介の人生が好転したとでも言うのかよ」

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「必ずしも、とは言わないけど」
「ふざけんな。あいつがどれだけ傷ついたかわかんねえのか。ラケット壊されてたんだぞ!?」

三橋の態度が、癪に障った。いじめで人生が好転するなんて、そんなのこじつけだ。妄想だ。三橋が勝手に決めつけた、三橋のルールだ。そう思うと、腸が煮えくり返る心地だった。

「なあ、三橋。玲介が、なんでいつもあんなに荷物が多いか知ってるか。過去にラケットを壊されたことがトラウマになって、今でも卓球の道具を自分の家以外の場所に置いておけないからなんだよ。部室に置いて帰るのが怖いんだよ。目が届くところにないと、あいつ、不安で不安で仕方ねえんだよ!」

三橋はなにも言わなかった。振り向きもしなかった。それがまた腹立たしかった。三橋の頭をかち割ってやりたかった。でも、それを、社会も俺も、嘉兄も、きっと許さない。許すはずもない。堪えきれず、俺はデッキブラシを床に投げつけた。からんからん、と、乾いた音がした。三橋はやっぱり無反応で、静かに窓を拭き続けていた。

「随分熱くなるんだね、七瀬って。自分のことじゃないのに」

三橋は、飽くまで冷静だった。そこまで冷えた声を聞かされると、頭に昇った血も否応なしに冷却されてしまう。三橋の一貫された態度は、人を不必要なまでに静めるか、不必要なまでに激昂させるか、そのどちらかしか導かない。今日の俺は、前者のようだ。俺の今日の運勢は、そう悪いほうではないのかもしれない。もう夕方時だけど。

「キミのお兄さんはいい弟を持ったと思うし、堺はいい友だちを持ったと思うよ。僕には不可能な話だから、ちょっとだけ羨ましい」
「不可能って、なにがどういう意味で」
「いじめって、確かにいけないことだと思うけど」

なにがどういう意味で不可能なんだよ、と言おうとした俺を遮って、三橋はひとりで喋り続ける。普段クールで口数が少ないだけに、饒舌な三橋というのは、貴重なカットだった。

窓ガラスを磨き終えたらしく、三橋は白い雑巾を手洗場で洗い始める。俺と三橋に命じられた懲罰なのに、俺が突っ立っているうちに、三橋はほとんどひとりでトイレ掃除を終わらせてしまった。美少年は、仕事もすこぶるスピーディにこなすスキルを身につけているようだ。

「少なくとも、僕は、そのいじめがあったおかげで、この学園にいる」

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