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夢は自由さ。たとえ坊ちゃんにぎぅうううってされようとも、におーにぎぅうううってされようとも、サレ様に頭撫でられようとも、思いっきりスパーダの肩を掴もうとも。夢ではすべてが、自由なのだよ。
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「は」
「日本のレッドゾーンって、どんな場所だと思う?」

日本のレッドゾーン、と言う三橋は、相も変わらず無表情だった。表現が抽象的すぎて、俺にはよくわからなかった。そんな俺の雰囲気が伝わったのか、三橋は肩を下げて振り向いた。何度見ても端正すぎる、人形のような顔立ちをしていた。

「七瀬にはきっと、一生縁がない場所だね。キミのお兄さんも、堺もたぶんない。三ツ井くんにもないだろうね。あ、壱井、だっけ。壱井には今後、あるかもしれない」
「壱井夏也?」
「人を殺すのも時間の問題だと思うんだけど、どうかな」

壱井夏也。数年前から知り合いで、何度かつるんだ記憶もあるのに、なんだか、久々に聞く名前だった。瞬間的に、俺は、背筋を冷たい電気が這い回るような感覚に陥った。頭に、壱井の姿が浮かぶ。学校に来ない壱井。補導の段階に留まってはいるものの、何度か警察の世話になっている壱井。俺が考える殺人者の像に、壱井の像を嵌め込んでも、なにも違和感なんて感じない。

犯罪少年と化した壱井の空想像は、俺にとって、あまりに身近に感じられた。恐怖、というよりは、酸素が足りず呼吸が苦しい、という感覚だった。

「なんでそんなこと訊くんだよ」

息苦しい感覚を逸らしたくて俺は訊くけど、三橋は相変わらずの棒読み口調で「別に」と答えるだけだ。

突っ立っている俺を横目に、三橋は清掃用具を片付ける。黙って帰るのかと思ったら、三橋は、トイレ出入口の向こうに置いてある自分の鞄を持ってきた。誰もが知っているスポーツブランドのスクールバッグ。ふと視線を落としてみれば、三橋のシューズもまた、同じブランドの値が張る一品だとわかる。

こいつ、この先絶対、女に困ることはないな。前々から思っていたことを、俺は改めて認識した。

「僕、帰るね」
「ここはトイレだし、しかも2階だぞ」
「うん」

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知ってるよ、と言いながら、三橋は窓に向かって歩く。まさか窓から出ていくのか、そういやこいつ、運動神経もいいんだっけ。俺の次くらいに。俺はそんなことを思いながら、ぼんやりと三橋の背中を見つめていた。

窓の手前で、三橋は、すっと足を止めた。そのまま少しだけ空を仰ぐような格好になり、はあ、と、か細い息を吐き出した。クラスの女子や変態趣味の担任が聞いたら、一瞬で気絶しそうな声だった。三橋は、自分の声と容姿が持つ、絶大的な威力に気付いているのだろうか。中学生ながら、三橋はいつも女を、ときには男だって魅力する。ほんの溜め息ひとつで。

「沈む夕陽、明日もまた、飽きずに晴天」

あ。今度は俺が、声を洩らした。さっき俺が思い浮かべたフレーズを、そのままの形で、三橋が口にした。すごい偶然だと思ったし、なんだか衝撃的だった。

「ちょっとベタだね」

三橋はそう呟くと、ばいばい、の一言もなく、振り向くこともなく、黙って窓枠に足をかけた。視界から、風の如く消え失せた三橋の幻想を見つめながら、ふと俺は、重大なことを思い出した。ジジイが俺と三橋に言いつけていたトイレ掃除は、この第一校舎2階だけでなく、体育館裏のトイレも含めていたということ。そして仕事をさぼったことがジジイにばれれば、もれなく次の懲罰が待っているということを。

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「キーホルダーでも人形でもなんでもいいんだけど、持ってると幸せになれるアイテムってあるだろ」
「どうしたんだよ、いきなり」

玲介は、俺の後ろでぶんぶんと腕を振っている。ケンカ上等、誰でもかかって来やがれ、というジェスチャーではなく、単純に卓球の素振りをしているだけ。帰り道であるだけに、その手にラケットが握られているはずはない。

沈む夕陽、明日もまた、飽きずに晴天。目を焼く程に鮮やかな茜色の空は、明日の好天を約束している。

ぼんやりと空を見上げながら、俺は次の言葉を口にする。

「玲介ってさ、ああいうイワクツキみたいなの信じる?」
「たまにテレビで紹介してる、これ持ってると結婚できるとか夢が叶うとか、そういう類のアレだよな」

呪いがかかってたりする悪い物品にのみ使う言葉じゃなかったんだな、イワクツキ。玲介はそんなことをぼやいて、エア素振りをやめて俺の隣に立った。

今日の玲介のジャージは青い。有名なスポーツブランドのロゴが背中に入った紺色の生地に、袖とズボンに青いラインが走ったデザインだ。俺にとっては高価なジャージも、小さい頃からばりばりの卓球少年だった玲介からしてみれば、なんの珍しさもないのだろう。

少し考える動作をして、すぐに玲介は答えを出してくれる。

「おまじないとして持ってるくらいなら悪くないよな。なんとなく安心するし」
「俺、信じない」
「まあ、信じるのも信じないのも、自由だとは思うけど」


さして興味がありそうな風でもなく、玲介はそう言って、人差し指で頬をかく。そうかと思うと、玲介は急に俺の肩を掴んだ。「そんなことより聞いてくれよ。4組の英語は津川先生なんだけど、優輝の奴が」

「俺は信じない」

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楽しげな玲介の表情が、何故か俺の脳神経に直接触れる。重ねて主張してやると、玲介は、一瞬驚いたように目を見開いた。俺の肩に載せていた手を引っ込めて、玲介は、小さく2歩後ろへ下がる。

「なにマジになってんだよ、尚」

お調子者で、昔からクラスの中心にいた玲介は、一言で周囲に多大な影響を与える。今この場にいるのは俺と玲介の二人きりだけど、それでも玲介の言葉は変に空気に馴染んでいた。実際にリーダーシップを取れる性格だし、既にそんなキャラクター像を確立している玲介は、なにを言っても説得力がついてくるのかもしれない。

幼馴染みである俺が急に変貌したことに対して、どうしていいのかわからない、と言わんばかりに玲介は硬直している。でもそれは飽くまで一瞬の出来事で、玲介はすぐに笑顔を取り繕っていた。重要なのは、いつも自然な笑顔の玲介が、自然ではない笑顔を「取り繕っている」ということだった。

「機嫌悪いな。姉ちゃんとケンカでもしたのかよ」
「ケンカはしてない」
「じゃ、なんだよ。給食のフルーツポンチが急に変更されたのが不服なわけ? 仕方ないだろ、給食のおばちゃんだって予想外だったと思うよ」
「そうじゃない」

場の雰囲気を解そうとしている玲介の魂胆は、あまりにも見え見えだった。玲介は、今日の俺は高揚しないこと、愛想よくできないことを理解した上で、なにか会話の弾む話題を持ち出そうとしている。見え見えだった。だから、余計に苛々してしまう。今日の給食のメニューからフルーツポンチがなくなったのは、確かにショックだった。でも、今はそれを嘆く時間じゃないし、そんな気分でもない。

今の俺って、いつものキャラじゃないよな。どこか他人事のように自分を客観しながら、俺は言う。

「俺は信じないんだよ。なにがあっても。たった今から世界が滅ぶとして、持ってないと絶対死ぬよって言われてお守りを渡されたとしても、俺は受け取らない」

突然、玲介は「取り繕った」笑顔をやめた。寂しげなような悲しげなような、なんだか複雑な顔をして、目の前で沈んでいく太陽を見つめながら言う。

「そう言えば、そういうおまじないみたいなのは好きじゃないって言ってたな。ていうか、嫌いなんだっけ」

俺は、再び夕陽に目をやる。

「でも、どうしたんだよ。いきなり頑なじゃないか」
「そうかな」
「そうだよ」

玲介が振り向いたのがわかる。玲介の偉いところは、すぐに訝しげな顔をしないところだ、と俺は思う。人が変なことを言い出したとしても、まず、感情移入から入る。不審げな顔をしない。相手がなにを言っているのかを分析して理解する、のではなく、直接、理解しようとしてくれる。世の中が必要としているのは、頭でっかちで理屈主義な大人じゃなくて、玲介のような、純粋に人を解ろうとする人間なんだと思う。

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精神的な壁を持たない玲介。バカだけど卓球という取り柄があって、クラスを問わず人気者で、俺なんかとは大違いの玲介。昔からよく知っているだけに、俺と玲介の差は歴然としていた。

「俺さ、今日、クラスの女子に告白されたんだよ」

俺がそう言うと、一瞬、玲介の息が詰まった気配がした。俺の言葉が、よっぽど予想外だったらしい。まあ、予想外だろうな、とは思う。でも、予想外ってどういう意味だ。どんな意味合いの予想外なのか、詳しく説明しろ。

俺の心の要求を他所に、玲介は満面の笑顔になる。ばしばしと俺の背中を叩いて、ハイテンションで喋り始める。

「すごいじゃん。それって、最低限、尚はその女の子にはモテモテってことだぞ」
「だから、どういう意味なんだよ」
「びっくりしただろ。それで、返事はどうしたんだ? 尚ってさ、好きな子いたっけ」

黙れ。告白されたときもびっくりしたけど、今のお前の発言にもびっくりしたわ。そして俺の話を聞け。とは思うけど、玲介が人の話を聞かないのはいつものことなので、俺は気にしないことにした。


「返事はしてない」
「ってことは、ちょっとはその気があるってこと?」

楽しそうに言う玲介に対して、俺は黙って首を振った。

「そんな対象に見られそうにないし、断ろうと思って」
「でも、返事してないんだろ」
「できなかったんだよ。よっぽど恥ずかしかったのか、俺の目も見ずに一方的に告白したっきりで、さっさとどっかに走り去って行った」

帰り際のことで、それからその女子を呼び止めて、何か言うタイミングすらなかった。俺の話を、玲介は黙って聞いている。こういう話はしっかり聞く玲介が、何故か憎い。

「教室だぞ、教室。最悪だよ。あいつが告白したことも、俺が告白されたことも、みんな知ってる。たぶん、明日には、学校中で話題独占だ」
「あいつ、なんて」

そんな言い方するなよ、とでも言いたげに、玲介が口を挟もうとする。ここでも、玲介は感情移入だ。俺じゃなくて、今度は、告白してきた女子に。

今日の放課後、起こった出来事を俺は思い出す。面倒な1日が終わり、特にすることもないし、さっさと帰ろうと席を立った俺を、あの女子は呼び止めた。教室の片隅で本を読んでいるような、大人しい子どもの典型のようなクラスメートだ。掠れるような声で、俯いていて、俯いているのに顔が真っ赤になっているのが丸解りで、小柄な身体が更に小柄に見えた。恋なんて経験のない俺だけど、遊びや冗談で俺を好きだと言っているわけじゃないことは、すぐに理解できた。本気で俺に惹かれていて、ありったけの勇気を振り絞って、やっとの思いで俺に想いを告げたんだと、察するのは簡単だった。たぶん、俺だけを個別に呼ぶ程、持ち合わせの気持ちに余裕がなかった。

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