精神的な壁を持たない玲介。バカだけど卓球という取り柄があって、クラスを問わず人気者で、俺なんかとは大違いの玲介。昔からよく知っているだけに、俺と玲介の差は歴然としていた。
「俺さ、今日、クラスの女子に告白されたんだよ」
俺がそう言うと、一瞬、玲介の息が詰まった気配がした。俺の言葉が、よっぽど予想外だったらしい。まあ、予想外だろうな、とは思う。でも、予想外ってどういう意味だ。どんな意味合いの予想外なのか、詳しく説明しろ。
俺の心の要求を他所に、玲介は満面の笑顔になる。ばしばしと俺の背中を叩いて、ハイテンションで喋り始める。
「すごいじゃん。それって、最低限、尚はその女の子にはモテモテってことだぞ」
「だから、どういう意味なんだよ」
「びっくりしただろ。それで、返事はどうしたんだ? 尚ってさ、好きな子いたっけ」
黙れ。告白されたときもびっくりしたけど、今のお前の発言にもびっくりしたわ。そして俺の話を聞け。とは思うけど、玲介が人の話を聞かないのはいつものことなので、俺は気にしないことにした。
「返事はしてない」
「ってことは、ちょっとはその気があるってこと?」
楽しそうに言う玲介に対して、俺は黙って首を振った。
「そんな対象に見られそうにないし、断ろうと思って」
「でも、返事してないんだろ」
「できなかったんだよ。よっぽど恥ずかしかったのか、俺の目も見ずに一方的に告白したっきりで、さっさとどっかに走り去って行った」
帰り際のことで、それからその女子を呼び止めて、何か言うタイミングすらなかった。俺の話を、玲介は黙って聞いている。こういう話はしっかり聞く玲介が、何故か憎い。
「教室だぞ、教室。最悪だよ。あいつが告白したことも、俺が告白されたことも、みんな知ってる。たぶん、明日には、学校中で話題独占だ」
「あいつ、なんて」
そんな言い方するなよ、とでも言いたげに、玲介が口を挟もうとする。ここでも、玲介は感情移入だ。俺じゃなくて、今度は、告白してきた女子に。
今日の放課後、起こった出来事を俺は思い出す。面倒な1日が終わり、特にすることもないし、さっさと帰ろうと席を立った俺を、あの女子は呼び止めた。教室の片隅で本を読んでいるような、大人しい子どもの典型のようなクラスメートだ。掠れるような声で、俯いていて、俯いているのに顔が真っ赤になっているのが丸解りで、小柄な身体が更に小柄に見えた。恋なんて経験のない俺だけど、遊びや冗談で俺を好きだと言っているわけじゃないことは、すぐに理解できた。本気で俺に惹かれていて、ありったけの勇気を振り絞って、やっとの思いで俺に想いを告げたんだと、察するのは簡単だった。たぶん、俺だけを個別に呼ぶ程、持ち合わせの気持ちに余裕がなかった。