昔の話となってしまったの
わたしの姉は晴れたある日
井戸の中に体ごと落ちて
二度と帰って来なかった

姉はわたしとよく遊んだわ
お気に入りはお人形遊び
今日わたしが姉役をやれば
明日の姉はわたし役なの

姉は井戸に落ちたのだけど
街で知っていたのはわたしだけなの
父さまも母さまも姉の不在を
心の底から嘆いていたわ

ねぇそれから噂になったの
姉は結局“行方不明”のまま
1年も2年も時が過ぎて
井戸の中から声がするって

「井戸の中から声だなんて
猫でも間違って落ちたんじゃない?」
わたしそう言ってやったら
「お前呪われる」ですってよ

ある晩にわたし証明のために
ひとりで姉を落とした井戸に行ったの
暗くて中なんてわからなかったけど
姉が生きているはずがないのよ

死ぬのなんて簡単なものだわ
本当は死んでもらう予定じゃなかった
わたしはまだ純粋な少女
生きるも死ぬも無関係なの

暗い井戸からは水の音
声に聞こえなくはない反響だったわ
この街の人はみんな怖がり
明日教えてあげなくちゃ

翌日胸を張ろうとしたら
なんと噂は変わっていたわ
井戸を覗けば手招きされるって
近所の友だちが震えてた

わたし確認に行ったわよ
でも噂はやっぱりでたらめ
井戸から手招きなんてされないわ
あったのはただつまらないもの

井戸の底で骨の出た指が
わたしにちょっと向いていただけ
まるで犯人を見つけたみたいに
人聞きの悪いお姉さま