『坊ちゃん』
「ん?」
『食べたくないんですか、チーズケーキ』
「そんなものに興味はない」
『嘘ばっかり。坊ちゃんもユーキも、しょうもない意地張ると長いんだから』
「なにか言ったか」
『なんでもないです。そんなことより、ユーキを追いかけましょうよ』
「なんで」
『うわー、このパターンめんどくさいし何回目……
せっかくのバレンタインなのに、ケンカしたまま終わらせるつもりですか?』
「してない。仲直りなんてしない」
『仲直り、なんて一言も言ってないんですが』
「……」
『心当たりありまくってますね』
「とにかく、僕は謝らないぞ。そもそも、あいつがいきなりメイド趣味なんて言ってくるから……」
『僕は、あながち間違いでもないと思うんですけどねー』
「なに?」
『こっちの話なので、どうぞお気になさらず』
「シャルまで言うのか。僕がメイド趣味だって」
『いや、もうこの際、そのメイド趣味が事実かそうでないかは、僕にとっても僕以外の人にとっても、まったく問題外なわけです。坊ちゃんが“メイド”なんて言ってる時点で、かなり高ポイントですし』
「僕はそんな趣味じゃない。そういう発想はどこから沸くのか、甚だ疑問だ」
『とにかく、ユーキを追いかけましょう』
「嫌だ」
『……いないと寂しいくせに』
「寂しい? 誰が? 僕が? あはははははは」
『笑った』
「笑えない冗談だな」
『笑ってましたよ、あなた』
「だいたいあいつは、こっちが許可してないのにも関わらず、勝手についてきただけの奴なんだぞ。別れる頃合いかもしれないな」
『坊ちゃん、サンタクロースの砂糖菓子が載ってないクリスマスケーキなんかに惹かれます?』
「なんでそんな話になる」
『そんなふうに例えてたのは坊ちゃんですよ』
「昔のことだ」
『あ、ユーキだ!』
「えっ、どこに!?」
『ほらほら、あっち! あっちですよ、ほら!』
「どこに……? 見当たらないじゃないか、ユーキなんて……」
『嘘です』
「……なんだと?」
『坊ちゃんの本心がよくわかりました。さあさあ、行きましょう』
「い、行かないぞ。僕は、断じて」
『えー、もういい加減にしてよー……(-_-;』
「僕は悪くない。僕は知らない」
『はぁ…。意地っ張りなんだから……』
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