ねえ、坊ちゃん。
「どうかしたのか」
坊ちゃん、坊ちゃんって、結婚するの?
「なにを言い出すんだ、いきなり」
ユーキは結婚するよ。たぶん、もうこれから何年と経たないうちに。
「そうか」
あ、何年と経たないうちに結婚できたらいいなっていう希望だけど。
「……そうか」
ママになるよ。
「まあ、なるだろうな」
坊ちゃんは結婚しないの?
「先のことなんてわからない」
ユーキ、坊ちゃんと結婚したいんだけど。
「ああ、そうか……って、ん?」
ユーキは坊ちゃんと結婚したい。坊ちゃんは? ユーキなんかいや?
「え、いや……」
あ……やっぱり、嫌なんだ。そうだよね。
「違う、今のはそういうのじゃなくて」
じゃ、ユーキと結婚したい?
「え……えっと……;」
坊ちゃんの子どもが見たい。
「……え、ええ……!? こ、子ども……」
はっきり言ってね、坊ちゃん。坊ちゃんがユーキと結婚したくないなら、ユーキは潔くいなくなるから。
「い、いなくなるって……どこに行くんだ? 実家に帰る……とか?」
ううん、帰んないよ。どこに行くのかはわからない。でも、坊ちゃんの目の前からはいなくなるし、それで二度と現れない。ユーキのわがままってわかってるんだけど、坊ちゃんを見るのが辛くなっちゃうもん。
「どうして? 今のままでいいじゃないか。今のまま、僕の傍にいればいいじゃないか。それじゃだめなのか? 今まで通りで、なにか問題でも」
内緒にしてたけど、ユーキには時間がないの。
「時間? 時間ってなんの?」
時間がないの。坊ちゃんが今ここで、ユーキと結婚したいって言ってくれなきゃ……もう、これ以上引き延ばせない。
「待ってくれ、話が見えない」
時間がないの!
「……えっ……」
……坊ちゃん。
「……」
ユーキ、もう行くね。ばいばい。
「行くって、どこに……」
言ったでしょ。わかんない。でも、行かなきゃ……ユーキ、坊ちゃんといるのが辛すぎる。
「待て、待ってくれ! そんなの勝手すぎだ! 今まで全然、そんなことなかったのに……急に結婚なんて言い出して、返事が聞けなかったからどこかに行くなんて許さない。ひとりで行くな。僕をひとりにしないでくれ……」
放してよ、坊ちゃん。
「嫌だ! ユーキ、僕は……お前がいなきゃ生きられない。結婚する。結婚してくれ……ユーキ……」
『妄想癖がうつったんですか、坊ちゃん』
「え」
『ひとりにしないで、ってどういうことです? 僕は? 僕という存在は抹消されたんですか? 結婚生活の中に、僕という存在は不要なんですね。ひどいなあ。僕はずっと坊ちゃんを支えてたのに』
「な、なにが結婚だ! 誰がそんなこと」
『坊ちゃんが自分で妄想してたんでしょ』
「お前が妙なことを言い出したからだ! 僕は悪くない!」
『悪いなんて言ってないでしょ、もー。それにしても、なんていう妄想ですか。時間がないってなんです?』
「知るか。ユーキがなんか……」
『頭の中でね』
「……(〃 〃;)」
『坊ちゃんって、意外と不思議っ子だったんですね。知らなかった』
「ゆ、ユーキには、絶対言うなよ……」
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