幾秒か経過した後、不意に、リオンは顔をあげた。紫色の彼の瞳は、不安定に揺らぎながらも、まっすぐにユーキの目の奥を覗き込んでいた。
ユーキは目をそらすことができなかった。リオンがこちらを見ている分だけ、こちらも黙ってリオンの瞳を視界の中心に置き続けてしまう。これを思うにはあまりに場違いだ、と承知しながらも、ユーキは、リオンの瞳の紫色をとても綺麗だと感じていた。
ユーキ、とリオンは名を呼んだ。先程とは違う、静かで安定した声だった。ふと、もの悲しげに曇ったその虹彩に、ユーキはどきりと冷氷を背中に押し付けられた心境になる。
「ユーキ。ユーキは、僕のこと……好きじゃないのか?」
オブラートのない率直な質問に、ユーキはなにも答えられなかった。
リオンは肘を曲げ、ユーキとの距離を縮める。
「返事がない。ということは、ユーキは、僕よりもあいつのほうがいいんだな」
「坊ちゃん、それは違うよ」
「なにが違うんだ!」
喉から絞り出したユーキの答えを、リオンは一蹴する。それでもユーキは首を振り、懸命にリオンの間違いを訂正しようと努めた。
「坊ちゃん、違う。違うの。坊ちゃんは勘違いしてる」
リオンは再び俯いた。深く溜め息を吐き、落ち着いた口調でユーキを諭すように言う。
「もう言い訳はやめてくれ。苦しいんだ。もしかしたらまだ、なんて都合のいいことをお前に期待してるのは苦しいし、そんな女々しい自分が嫌で嫌で堪らないんだ」
リオンは、諦めたような笑い声を微かに漏らす。違う、違う。そんなこと言わないで。ユーキは、泣き出しそうになりながらひたすら首を横に振った。しかし、俯いているリオンにその動作が見えているはずはなかった。「もういいんだ、もう。認めて、ユーキも楽になればいい。ユーキも、本当に好きな男の傍で堂々と笑っていたいだろう?」
だから、それは誤った認識だというのに。ユーキはただ否定する。リオンは、ひとりで話を完結させようとしている。やめてやめてやめて。ユーキは心の中で叫ぶ。
ふ、とリオンが小さく笑った。明らかに自嘲の笑みだった。そして次の瞬間、ユーキの望む平穏な世界は、完全に崩落した。
「ユーキはもう、ルルーシュ・ランペルージの傍にいけばいい……」
「そのほうが、お前も幸せだろう?」最後のその一言が、ユーキの胸に重く響いた。
PR